【具体事例】労災による後遺障害の損害賠償請求の計算方法

労災によって後遺障害が残ると、以前と同様に働けないために収入が減ったり、精神的な苦痛を被るなど、被災した労働者やその家族にとって大きな影響があります。

労災の発生について会社に安全配慮義務違反や使用者責任がある場合は、労災保険とは別に、会社に対して損害賠償請求ができます。労災保険は労災による損害のすべてをカバーしてはいないため、労災保険では足りない分を会社へ請求していくことになります。

ここでは、労災の具体事例を見ながら損害賠償の主な項目や計算方法をご紹介します。

事例

労災事故の内容:製造の工場で作業中、機械に右手を挟まれて負傷、機能障害が残った。
労災発生時の年齢:35歳
休業期間:6か月間(180日間)休業
症状固定までの期間:1年
入通院の状況:2か月間入院、退院後10か月間通院
後遺障害等級:9級に該当
平均賃金(日額):10,000円
平均年収(賞与込):420万円

損害賠償算定額

Ⅰ 損害額

1 治療費:労災から全額支給のため、ここでは計上しません
2 休業損害:180万円
3 慰謝料
 ①入通院慰謝料:203万円
 ②後遺障害慰謝料:690万円
4 逸失利益:約2997万円

損害額合計 約4070万円

Ⅱ 損益相殺額

1 休業補償給付 約106万円(注:休業損害からのみ相殺)
2 障害補償給付:391万円(注:逸失利益からのみ相殺)

Ⅲ 損害賠償額合計

Ⅰ損害額よりⅡ損益相殺額をマイナスした、損害賠償額の合計は以下の通りです。

約3573万円

請求項目ごとの計算方法

以下、項目ごとの計算方法を解説します。

Ⅰ 損害額

1.治療費

治療費は、労災認定されると療養補償給付を受けられるので、会社へ損害賠償請求する際には損害額から控除します。

2.休業補償

労災のために仕事を休み、賃金が払われなかった日についての休業補償です。
計算式は「平均賃金×休業日数」です。

事例の場合は、平均賃金10,000円×休業日数180日=180万円 となります。

※平均賃金とは、労災発症以前の3か月分の賃金合計をその期間の暦日数で割った額です。

3.慰謝料

①入通院慰謝料

労災による怪我や病気のために受けた精神的苦痛に対する慰謝料を請求します。具体な計算方法としては、裁判例をもとに定められた慰謝料算定表に基づき、入院・通院の期間に応じて計算します(「裁判所基準」または「弁護士基準」と言います)。

事例の場合は、入院2か月、通院10か月ですので、慰謝料算定表より、203万円となります。

※むち打ち症状や打撲など軽症の場合は、以下の表に基づいて入通院慰謝料を算定します。

②後遺症慰謝料

労災により後遺症が残り、障害補償給付の労災申請をして障害等級に該当した場合に請求できます。

慰謝料額の裁判所基準額は以下の表のとおりです。

事例の場合は、9級なので690万円となります。

4.逸失利益

後遺症のために得られなくなった将来の賃金額を請求します。

計算式は次のとおりです。

①基礎年収×②労働能力喪失率×③就労可能年数に対応するライプニッツ係数

【事例の場合】420万円×35%×20.389≒約2997万円

以下、計算式の各項目について説明します。

①基礎年収

賞与を含めて、労災事故以前の年収をベースとします。

※将来の昇給分を加味して算出する場合もあります。

②労働能力喪失率

次の表のように後遺障害等級に応じて労働能力喪失率が定められています。

③就労可能年数のライプニッツ係数

就労可能年数は、67歳と死亡時または症状固定日の年齢との差で計算します。

【事例の場合】67歳-35歳=32年

32年に対応するライプニッツ係数は「20.389」です。

【参考】就労可能年数とライプニッツ係数表(国土交通省のサイトへリンク)

https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/syuro.pdf

※2020年4月の民法改正で、中間利息がそれまでは5%であったのが、改正以降は3%になりました。労災の発生時期が民法改正以前か以後かによって、中間利息が変わります。

Ⅱ 損益相殺

労災保険から支給を受けた後で会社から損害賠償を受ける際、同じ趣旨の項目については損害賠償額から控除します。これを、「損益相殺」と言います。(損害賠償を労災保険より先に受けている場合は、労災保険の給付に対して支給調整がされます。)

損益相殺、支給調整する項目の対照表は以下です。(労災保険の特別支給金は損益相殺の対象にはなりません。)

①休業補償給付

労災認定されると休業4日目以降の賃金の6割は休業補償給付で受けられので、損害額から控除します。

事例の場合:10,000円×177日(※休業日数-3日)×0.6=106万2千円

②障害補償給付

後遺障害等級で8~14級は一時金での支給になり、一時金の金額を損益相殺します。

事例の場合:9級は給付基礎日額の391日分が支給されます。

10,000円×391=3,910,000円

※1~7級は年金での支給になり、一時支給の上限額を損益相殺します。

さいごに

後遺障害の損害賠償請求についてはユニオンへご相談を

労災の損害賠償請求に関してお困りの方は、労災ユニオンへご相談ください。

労災ユニオンでは、被災した労働者の方がユニオンに加入して会社へ損害賠償請求し、交渉の結果、十分な損害賠償を受けて解決できた事例も積み重ねています。相談無料、秘密は厳守します。

お知らせ

労災ユニオンは、1月30日(日)にオンラインセミナー「どうしよう?労災事故で後遺症が残ってしまった!~会社に損害賠償を請求する方法」をNPO法人POSSEと共催で開催します。ぜひご参加ください。

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