「私のような思いは決してしてほしくない」高齢労災被災者の想い。

 

横浜市のビルメンテナンス会社で清掃業務に従事しているパート労働者のAさん(69歳)が業務中に首や足の骨を折るという大怪我をし、横浜南労働基準監督署から労災認定されていたことについて、12月20日に本人と家族、私たち労災ユニオンで厚生労働省にて記者会見を行いました。

会見場には多くの記者が集まり、報道は、Yahoo!ニュースのトップにも掲載されました。

勇気を持って、声を上げられない高齢労働者の現状を語ったAさんの行動が多くの人の心を動かしました。

会見の概要を共有しますので、ぜひご覧ください!

◆会見趣旨・意義 

1、増加する高齢者の労働者人口

内閣府がまとめた『平成30年版高齢社会白書』によれば、2017年の労働力人口は、6,720万人で、労働力人口総数に占める65歳以上の労働者の割合は15年連続で増加し、12.2%に達しています。 特に、2011年から2017年までの間では、高年齢者雇用安定法による定年後再雇用が制度化された影響で、8.9%から12.2%に一気に上昇しています。

さらに、同白書の世代別の就業者割合では、男性の場合65~69歳で54.8%、70~74歳で34.2%、同じく女性の場合65~69歳で34.4%、70~74歳でも20.9%となっており、70歳代においても2〜3割の高齢者が働いている現状があります。

2、注目されていない高齢者労災事故の増加

厚労省の統計からも平成元年〜27年までの20年間に、労働災害全体の件数が減少する中で、60歳以上だけは件数が減少しておらず、世代別労災発生件数の全体に占める割合が12%から23%へ増加しています。

3、政府の高齢者就労促進で見落とされている「高齢者の使い潰し」

政府は「一億総活躍社会」を提起し、人手不足を補うために高齢者の就労促進を推し進めています。今年11月末の「未来投資会議」でも、現行で65歳までとなっている継続雇用年齢を70歳まで引き上げる中間報告が出ています。しかし、高齢者の就労率の高まりの裏側で、安全衛生の不備等による「高齢者の使い潰し」とも呼べる過酷な状況が広がっていることは社会的に注目されていません。今回のその象徴的な事件ですので、広く周知できたらと考えています。

 

◆事件概要

1、当事者・問題概要

・69歳の女性で、パートとしてビルメンテンス会社の清掃労働者をしていました。

・2018年5月16日の業務中、会社がプロポーサル契約を結んでいる税務大学校東京研修所(千葉県船橋市)にて階段から転落し、頭部外傷・頚骨骨折・右大腿骨骨折(8月15日人工骨頭置換手術済)歯の抜去等、大怪我を負い救急搬送され入院しました。

・会社側は労災手続きの遅滞(再三再四、労災書類を送っていただけるようお願いしても3ヶ月も放置等)、社長から家族へ威圧的で怒鳴り口調での電話の対応・圧力等々が起きました(労災隠しを疑わせるもの)。

・また、会社の営業担当者から本人へ労災休業期間中であるにも関わらず「会社を辞めてほしい。」と連絡が来ました(休業期間中の解雇は違法)。

・11月にリハビリを経て病院を退院しましたが、現在も痛みは継続しており、後遺症の恐れもある状況下で休業中です。

・労働基準監督署からは、最終的には無事、労働災害として認定されています。

・労災ユニオンに当事者の家族から相談が寄せられ、現在会社と団体交渉を行なっている事件です。

2、企業

・会社は、従業員数約200名のビルメンテナンス会社です。

・オフィスビル、マンション、ホテル、官公庁や学校・病院の清掃・警備・設備保守などの総合メンテナンスを行っています。

 

◆当事者たちの想い

1、当事者

私は、労災被災当時68歳という年齢になるまで子育てや親の介護をしながら、精一杯社会で働いてきました。

定年後だいぶ経ち心臓と脚の悪い80歳近くになる夫の面倒を見ながら、少しでも年金の足しになるようにと毎日朝早くから一生懸命働いてきました。

しかし、労災に遭ったことで会社からは疎まれ、手術後まだ入院中のベットの上から動けない時点で、会社から電話一本で会社を辞めるように言われました。

まるで、それは『姥捨て山』に捨てられたような、とてもつらく、とても情けなく、屈辱的な、それまで生きてきた人生を否定されたような思いで、ただただ涙が止まりませんでした。

現在も多く社会で懸命に働く高齢の労働者の方に、私のような思いは決してしてほしくないです。

 

2、当事者の娘

母は、この年齢で余りに不幸すぎる労災事故に遭い大怪我を負い、身体の自由が利かなくなるまで、私たち家族のため、社会のために懸命に働き、生きてきてくれました。

母には、身体が動くうちは元気に社会や会社に貢献していたいという強い責任感もあったと想います。

高齢者雇用をしている会社が全てがそうだとは決して思いませんが【高齢者なら勤務できるあても少なく、低賃金で使い捨てにできる会社にとって便利な存在】として、高齢者の労働力を都合よく利用し、いざ労災に遭えば、会社のお荷物として切り捨てるのは、社会で何十年も働き、家族のために尽くしてきた高齢の労働者に対しての尊厳を余りに冒涜した態度です。

私たちの、父や母たちの世代の方々は敬われることが当然であり、心無い会社に使い捨てにされるような存在では決してありません。

政府は、一億総活躍時代という聞こえのいいスローガンを掲げ、高齢者の労働力を利用拡大していく政策を今後も進めていくと思います。

それであるならば、まずは母のように低賃金かつ法律も遵守されていない劣悪な労働環境に置かれている上、使い捨てにされる多くの高齢の労働者の方々の労働環境の改善を進めることが、何よりも優先されるべきでありませんか?

 

◆報道まとめ

高齢清掃員の怒り「姥捨山に捨てられた」 大ケガで会社は退職要求、労災申請も渋る【弁護士ドットコム】
https://www.bengo4.com/c_5/n_9019/

働く高齢者は年々増えているのに、安全対策が進んでいないとして、個人で加入できる労働組合「労災ユニオン」が12月20日、厚生労働省記者クラブで会見をひらき、「高齢者が使い潰されている」と警鐘を鳴らした。
会見には、横浜市のビルメンテナンス会社で、清掃業務に従事する契約社員の女性(69)も出席。業務中に大ケガをしたところ、会社は労災申請に非協力的だったうえ、入院中に電話で辞めるよう連絡してきたという。
女性は、「姥捨山(うばすてやま)に捨てられたような、屈辱的な、人生を否定されたような思いで、ただただ涙が止まりませんでした」と当時を振り返った。

●一生懸命やってきたのに「ケガしたら部品扱い」
女性は「年金の足しに」と、会社が契約している千葉県のある施設で清掃の仕事を始めた。時給1000円で週5日、午前8時半〜午後2時半までの勤務だったという。
しかし、今年5月、業務中に階段から転落し、首の骨を折ったり、下の歯を複数失ったりするなどの大ケガを負ったところ、会社は辞めるよう求めてきたという。
加えて、会社は再三の要求にもかかわらず、労災関係の書類を送らないなど、なかなか労災申請に協力してくれなかった。
女性の職場は高齢者ばかりで、常に人手不足だったという。それでも施設の職員らとの関係を良好に保ちながら、要求以上の成果をあげてきたという自負がある。にもかかわらず、「ケガしたら部品扱いされた」と女性は憤る。
女性は、一時現場に復帰したが、無理がたたって休業中。なんとか労災申請・認定にこぎつけ、休業補償などを受けているという。
女性は、労災隠しが疑われるような同種事案が多いとして、ユニオンを通じた会社との団体交渉で再発防止などを求めている。今も痛みがあるといい、後遺症についても労災申請する予定だという。

●高齢者のケガしやすさに配慮を
労災ユニオンの佐藤学さんは、女性の事故に高齢者の労災問題の要素が多く詰まっていると説明する。
まず、高齢者のケガは大事故になりやすいということだ。中には、ちょっとしたことでケガすることもあり、会社からすれば「自己責任」などの不服感が生まれやすい。
加えて、高齢者の多くは非正規労働者。立場が弱く、声をあげづらいという面もある。
「高齢者は、安い労働力として使われている。いざトラブルが起きても、会社からすれば簡単に契約を切れるので、安全面での対応が進みづらい」(佐藤さん)
同ユニオンは12月23、24日に、高齢者の労災についての無料電話相談会も実施する。午後1時〜午後5時まで。電話番号は0120-333-774。

 

労災休業中に勤務先が退職勧奨 高齢者「使いつぶし広がる【共同通信】

https://this.kiji.is/448417984068617313?c=39546741839462401

 労働組合「総合サポートユニオン」(東京)は20日、清掃作業中に階段から転落し、大けがを負った千葉県在住のパート女性(69)が、横浜南労働基準監督署によって労災が認められたと発表した。けがでの休業中に勤務先の横浜市のビルメンテナンス会社から退職勧奨を受けており、ユニオンの担当者は「高齢者の『使いつぶし』と呼べる過酷な状況が広がっている」と主張している。

 ユニオンによると、女性は5月、勤務先が請け負っていた税務大学校東京研修所の清掃作業中に転落、首や脚を骨折した。家族が会社に労災手続きを求めてもすぐには応じず、休業中に「辞めてほしい」との電話もあった。

 

 

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